「山あいの学校から高校野球に革命を起こしたい」と言い切る。2015年から武田高(黒瀬町)の監督を務める。平日の練習時間は50分。県内の学校と比べても極端に短い。その分、フィジカル革命や、練習の数値化など独特の理念を持った先進的な指導で、無名校だった同高のレベルを引き上げてきた。高校野球関係者から注目を集める存在だ。(日川)
短い練習時間を補う工夫の一つが「フィジカル革命」と名付けたトレーニング法。野球に必要となる大きな体で素早く動ける体をつくることが、高い技術を習得する近道になるとの思いからだった。体の各部位を鍛える30~50項目のトレーニングメニューを考案し、練習の日課にした。
もう一つは練習を数値化したこと。フィジカルトレーニングは、毎月1回、数値を測定。選手間のランキングを見たり、過去と比較したり、とさまざまな角度から数字を分析する。「選手にとっては、数字は残酷な半面、モチベーションを上げるツールになる」
数字は、試合のプレーなどでも使用する。例えば、野球の流れを選手に説明するとき、イニングごとに守備と攻撃の時間を測定。選手には、守備に要した時間よりも、攻撃に要した時間が長くなっていることを数字で示す。選手は、数字で流れの感覚をつかむようになる、という。
高校球界の名門として知られる広島商の出身。独立リーグなどでプレーした後、広告代理店に勤務。異色のキャリアは、武田の現場に生かした。「広告代理店では、決められた予算内で結果を出すことを求められてきた。野球に置き換えたとき、だったら50分で勝てるチームを作ろう、と考えるようになった」
心に留めてきたのは、選手が、毎日の効果の積み重ねを感じること。50分の練習が終わったとき、選手が「練習時間が足りなかった」で終わるのではなく、「今日の練習はこのことができた」で終わるような指導を心掛けてきた、という。
今年で監督就任8年目。指導の成果は着実に表れるようになった。20年には夏の県大会でベスト4に導く一方、育成ながら2人をプロ野球の世界に送り込んだ。大きな目標は甲子園出場だ。「50分の練習で甲子園は壮大な挑戦かもしれない。でも、絶対にできないことに挑戦するって面白いでしょう」。