東広島は県内でも有数の米どころ。田を身近に見ることができ、田の様子で季節を感じる人も多い。
今年もたわわに実り刈り取りの最盛期。その風景を切り取るとともに担い手不足が叫ばれる中、田を守り、米を大切に育てている人たちにスポットを当てる。
賀茂プロジェクト(豊栄町)
明るく元気な農業目指して前進
一日の中で寒暖の差があり、水もおいしい豊栄町は米作りにぴったりの環境。同町の清武、安宿、吉原の3地区では、昔から受け継ぐ大切な田をしっかりと活用し守りながら、「明るく元気な農業」の実現へ向け突き進んでいる。
同地区で米作りをするのは「株式会社賀茂プロジェクト」。精米機メーカーのサタケと生産者が共同で設立した株式会社で、3地区の生産者がそれぞれ一般社団法人(一社)として所属。栽培、あぜ・水の管理を一社で行い、中長期事業計画や販売を賀茂プロジェクトが担う。市場のニーズに合った米を計画的に生産し、複数の販路を確保することで、売り上げは順調に推移。
「担い手の育成にも力を入れており、豊栄に住みたいと思う人が増えるとうれしい。農業を通して元気な地域になるよう努力していく」と水野英則社長。
昨年、入社した西条町の西尾まいなさん(30)は、今は休耕田の祖父母の田で米作りすることを目標に勉強中。「子どものころから、祖父母の作業を見ていて、季節ごとの田の景色が好き。私の手であの景色を復活させたい」。西尾さんのほかにも20代のスタッフが2人いる。一緒に作業するシニア世代のメンバーは「若い人がいると希望が持てるよ」と明るい声で話していた。
ふぁーむたかちゃんち(西条町)
子どもの声が自信に 有機栽培貫く
米の有機栽培に取り組み続け15年。「年々味が良くなってきている」としみじみと語る佐々木貴之さん(50)。暑さに強い品種「にこまる」を栽培している。
祖父母の田畑を譲り受け、脱サラし専業農家に転向してからは「より安心・安全な米や野菜を」と、化学肥料や農薬の使用量を特別栽培米のガイドラインよりも減らし、自然に近い形で栽培している。「有機肥料はゆっくりと効果が出る。土がだいぶ変わってきた」。
農薬を減らすと草が生え、選別回数が増えるなど大変なことも多いが、貫こうと決めた出来事があった。
広島市安芸区瀬野の保育所に卸しており、それまで米が嫌いで食べなかったという園児が、同ファームの米を喜んで食べた、という話を聞いたこと。「味に自信が持てたし、子どもにはやはり安心・安全なものを食べてほしい」と決心。
また、野菜も有機栽培している。長男の通う小学校でPTA会長を務めたことをきっけに、土作りから収穫・販売までを体験する学習も実施している。「農業には5教科全ての要素が入っている。販売までの体験で、食への関心が高まれば」。
にこまるの収穫は10月下旬。11月以降、エブリイや道の駅西条のん太の酒蔵などの店頭に並ぶ。