あの日あの時感じたあの言葉、そして心に残る言葉を紹介するコラムです。
野崎賢治さん プロフィール
vol.03 :「演じる人の履歴書を考える」
2004年4月15日の私のエッセー。
「HOMEふるさとCM大賞」の審査委員長をお願いしたのが皆さんご存じ、テレビでおなじみの映画監督、山本晋也さんです。とても気さくな方で、気軽にいろんなことを話してくださいました。
興味深かったのは、山本監督が映画の「現場」にこだわっているという話。「いやー私は、現場が好きでね。いつまでもこの雰囲気と関わっていたいのですよ」。
映画監督は、スタッフ全員の健康状態から、今おなかをすかせている人はいないかまで、あらゆる気配りが要求されるそうです。もちろん山本さん、これらにぬかりはないのですが、さすがに年齢とともに、気を使うことがきつくなってきたそうです。だから、いつまでも現場にいられるよう、今は監督をせずに、出演者としてつながりを持つようにしているのだそうです。
そして、私が感心したのはその後の話。「私はね、演技をするとき、必ずその役柄の履歴書を考えるのですよ。演じる人になりきるためにね」。
例えば山本さんが、旅館の番頭さんの役を演じることになったとしましょう。そうすると、この人の生い立ちを自分の中で作り上げていくのだそうです。もちろん、こんなことは台本には書かれていません。この番頭さんは、青森県のりんご栽培をしている大きな農家で生まれ、幼少のころに父親を亡くし、若くして苦労を強いられ、長男として、弟や妹の面倒を見ながら母親を助け…。とこんな具合に具体的にその役柄の人の履歴書を考えていきます。そうすることによって、その役柄の人物により近づいていくことができるのだそうです。
山本さんは助監督のころ、先輩の監督にこの履歴書の創作を、徹底的に教え込まれたそうです。ちょっとした端役の人物であろうと出演者全員の履歴書を創作するそうです。
その道で評価されている人はいろいろな努力をされているものですね。目からうろこが落ちる思いをさせていただきました。
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