東広島市福富町の県道33号から脇に逸れてさらに奥。豊かな自然の中にある門藤農園では、田植えが終わったこの時期から田にアイガモを放つ。アイガモが田を歩き、虫や雑草を食べ、落としたふんが田の栄養になることで、農薬や化学肥料を使わなくてもおいしい米が育つ。
アイガモ農法のきっかけ
同農園の代表・門藤温三さん(86)は30年ほど前、肝臓を悪くしたことをきっかけに自然農法に切り替え、その当時、日本ではまだ珍しかったアイガモ農法を取り入れた。「農薬は、それを使った米を食べる人だけでなく、それを使う人にも害があるのだと、身を持って感じた」と振り返る。
現在は、長男の浩矢さん、次女の基世さん、そしてアイガモと共に、完全無農薬・無化学肥料での米作りを行っている。温三さんは「体は食べた物でできている。安心して食べられる、食べてもらえるものを作り続けていきたい」と話す。
アイガモの一年
春にアイガモのひなを仕入れて、田植えが終わったら田に放つ。
アイガモは、敵となる野生動物を防ぐための柵が設置された田の中で過ごす。
稲穂が出る8月中旬ごろ、田から引き揚げ食肉業者に送る。
こだわりの米にファン
自然の力で育てるため、大量生産はできず、米に色むらが出ることもあるが、それが安心の証でもある。米は全国で販売しており、北は青森、南は鹿児島までにファンがいる。
試食した玄米、古代米のミックスはかみ応えがあり、もちもちしていて、かめばかむほど甘みが増す。
普通の玄米は水を吸いにくいため圧力釜を使うなど炊飯に手間がかかるが、専用の精米機で小さな傷を付けることで吸水性を高めた「発芽ごはん」も販売。30分~ひと晩水につければ普通に炊ける。
自然農法アイガモ米の「米ぬか」のみの製品も作っている。炒ってふりかけにすると、独特の甘みがあり、ごはんにかけるだけで手軽に食物繊維が取れる。レシピもつけてくれるのでぜひ試してみたい。
自慢の米と国内産大豆、塩のみで作るみそや、大陸から渡ってきたときの姿を色濃く残す古代米などもある。
酒米も栽培。竹原市の竹鶴酒造がアイガモ農法で作られた米を100%使用した純米酒「門藤夢様」を生産・販売している。
アイガモ米は門藤農園のほか、道の駅湖畔の里福富、福富物産しゃくなげ館、となりの農家で販売。
とれたて元気市となりの農家店では生みそと古代米のみ販売。
周辺では広島市のひろしま夢ぷらざ(広島市中区)などで購入できる。
文・小林祐衣
撮影・井川良成
ザ・ウイークリー・プレスネット
2021年7月8日号掲載