東広島市の高垣広徳市長が、来年1月に行われる市長選への立候補を正式に表明した。現在と過去を踏まえた検証になるため、東広島市議で政治歴が40年と最も長い奥谷求氏を交え、本紙編集委員の吉田実篤と日川剛伸の3人で、▽1期目の検証▽市職員の逮捕▽2期目への注文―をテーマに検証した。
■1期目の評価
日川 本紙でも触れたが、東広島市議の7割が高垣市長の1期目を支持した。
奥谷 西日本豪雨災害からの復旧や新型コロナ対策に奔走する中で、昨年、デジタル技術を活用した共生社会の実現を目指した総合計画を策定し、市の将来ビジョンを示した。無難に4年間のかじ取りを担ったといえる。ただ、市長にとっては、これからがスタート。2期目の挑戦は当然だ。
日川 無難=物足りない、と感じている市民もいる。
奥谷 市議会としては、派手さはなくても堅実に市民の要望に応えたかが、市長の通信簿の基準になる。派手な施策はパフォーマンスだけで終わることも多い。実務を評価しての7割だと思う。
吉田 市議の7割は評価しているとしても、市長のまちづくりビジョンには、理解できる市民と理解できない市民がいるだろう。
奥谷 市民はさまざまな立場で生活している。市長のビジョンが届きにくい市民に、どう浸透させていくのか。今後の課題だ。
吉田 今週号の本紙1面では、市長は「庁舎内にいると市民の叫びが伝わってこない」と話しているが、本音だろう。
奥谷 市長は、コロナ禍などの制約がある中でも工夫を凝らして、市民の声を聞いてきた。そうした中で、市の職員の情報がオブラートに包まれていることは、市長自身も感じていることだと思う。
■市職員の逮捕
日川 職員に対しては、市長は「職員行動理念」を策定し、倫理の徹底を訴えてきた。そうした中で、市職員が公共工事をめぐる収賄容疑で逮捕される事件が起きた。
吉田 厳しく罰しなければいけない、と言う人もいるが、人は100%完璧ではないし、10 0%正しい公務員もいない。だが市長は頭を下げて陳謝しないといけない風潮がある。
奥谷 しかし、逮捕は事実であり、公務員という公僕の立場。批判は甘んじて受けなければならない。
吉田 贈賄側の民間人も逮捕されている。公共事業をめぐり規制が厳しいことに不満を持つ土建業者は多いと聞く。その理由も追求すべき。40年前と比べ、規制は厳しくなっているのか。
奥谷 厳しくなっているとは思わない。規制は特定の人を苦しめるのではなく、多くの市民を幸せに導くためにあることを忘れてはならない。
日川 一職員の逮捕ではあるが、「モチベーションが下がる」と感じる市職員は多い。市全体の業務に支障をきたさなければよいが。
吉田 モチベーションを上げる方法が一つある。市長には、市職員を褒めることを意識してほしい。
奥谷 市職員が評価されることは少ない。悪いところを洗い出すことも必要だが、もっと評価されるシーンを増やすべきだろう。
■2期目への注文
日川 今回の事件が市長選に与える影響は。
奥谷 まちづくりとは切り離して考える必要がある。事件とまちづくりを連動させることはナンセンス。
日川 今週号の本紙1面でも触れているように、市長は、市民との間にギャップがあることを気にしている。
吉田 市長は「私は10年先を考えるが、市民は今のことしか考えない」とあるが、市民は今の生活が大変だからといって、10年先を考えていないわけではない。むしろ10年先を見据える情報が市民に伝わっていない。
奥谷 市民が今のことを考え、市長が10年先を考えるのは、決して矛盾はしていない。市民が今、生活できていることは、10年前の施策があってこそ。その意味でいえば、市長は10年先の政策を分かりやすく伝える責任がある。
日川 「分かりやすさ」が2期目へのキーワードになるのは間違いない。
吉田 ちょっと調べたが、市民に伝える広報予算が紙媒体に偏っている気がする。
奥谷 確かにSNSを使った発信は不足しているのかなと。あと、市の広報紙や議会便りがどれだけの市民に読まれているのか疑問。配布された瞬間にゴミ箱、ということを結構聞く。
吉田 きちんとデータを取る必要がある。広報戦略については、次の機会で検証したい。
主な実績
2018年
2月●市長に就任
前市長退任に伴う市長選を制し5代目市長に就任
5月●市長定例会見を開始
市長自ら市政情報を発信する場として毎月開催する記者会見をスタート。
7月●平成30年7月豪雨災害への対応
市内全域で甚大な被害が発生。災害の実情を当時の安倍首相に現地で説明し、早期の支援を要請。
8月●高垣市長と語る「ふるさと夢トーク」開始
市政に地域の声を反映させることを目的に、各住民自治協代表者と意見交換。2020年策定の第五次総合計画に反映した。
11月●「市職員行動理念」の策定
組織(全職員)の目指すべき姿を掲げ、実現するための基本的価値観を示す。
10月●広島大学と「国際的研究拠点東広島の形成に関する協定」の締結
2019年
広島大学と連携を強化するため締結。
10月●元気輝きポイント制度の開始
高齢者の健康寿命の延伸を目指し、高齢者の介護予防活動などに報奨金が支給されるポイントを付与。
11月●地域すくすくサポートを整備
妊娠期から子育て期まで切れ目のない支援を行う拠点として、市内10の日常生活圏域に整備。
11月●東広島イノベーションラボ「ミライノ+」がオープン
新たな産業を生み出す拠点施設として開設。
2019年11月8日、西条岡町にオープンしたミライノ+
2020年
2月●東広島スマートエネルギー(株)の設立
省エネの促進やエネルギーの地産地消を推進するため官民共同で設立。
2月●東広島ビジネスサポートセンター・ハイビズ開所
東広島商工会議所と連携。中小企業の強みを引き出す相談所として開設。
3月●第五次市総合計画を策定
2030年に向けた市の新たな将来ビジョンと発展の方向性を示す。
4月●新型コロナウイルス対策室の設置
新型コロナウイルスで影響を受けている市民や事業者を迅速に支援するため設置。
4月●「タウン&ガウン構想」の取り組みを開始
広島大と一体となってまちづくりを行うため、大学内に準備室を設置。
7月●「SDGs未来都市」に選定
県内市町では初めての選定。SDGsの理念にのっとり、まちづくりを推進。
10月●(仮称)八本松スマートインターチェンジ事業化決定
市内で5番目のインターチェンジとなる。整備後は、渋滞緩和はもちろん、経済・観光分野でも効果が期待される。
11月●新市立美術館が開館
市中心市街地の西条栄町に移転オープン。
八本松スマートインターチェンジの連結許可書の伝達式(2020年11月13日)
2021年
4月●東広島DMOが本格始動
市の観光振興を担う官民組織。事務所はサンスクエア内に設置。
10月●「広島中央エコパーク」が稼働
東広島市と竹原市、大崎上島町のごみ焼却と、し尿処理施設を集約。最新の炉で埋め立て処分は不要になる。