歯を失うことは、単に食事がしにくくなるだけではない。歯の本数と全身状態の関係について、東広島市歯科医師会の薮本修副会長に伺った。
🦷 80歳で20本以上の歯があれば何でもおいしく食べられる
80歳になっても自分の歯を20本以上保とう、という「8020運動」。20本以上の歯があれば、ほとんどの食べ物をかみ砕くことができ、おいしく食べられるといわれています。
達成率は運動開始の当初、10%以下でしたが、2016年の調査で50%まで向上しました。
仮に8020を達成できなかったとしても、しっかりとかみ合い、きちんとかむことができる義歯(入れ歯)などを入れて口の中を良好に保つことで、20本あることと同程度の効果が得られます。しっかりかむことができれば全身の栄養状態も良好になり、よくかむことで脳が活性化され、認知症のリスクが軽減するという調査結果も出ています。
🦷 歯がない人はボケやすい?
昔から、「歯がない人はボケやすい」といわれています。近年の研究で、口の中に残っている歯の数と認知症発症率には関連があることが分かってきました。
東北大大学院の研究グループが70歳以上の高齢者を対象に行った調査によると、脳が健康な人の歯は平均14・9本であるのに対し、認知症疑いありと診断された人の歯は9・4本しかなかったというデータがあります。
また、名古屋大大学院医学系研究科の行った調査によると、アルツハイマー型認知症の高齢者は、健康な高齢者に比べて、残っている歯の本数が平均して3分の1しかなかったといいます。
しっかりかんで食事することで脳の血流が良くなるとともに、かむ刺激で脳が活性化されて元気になり、脳が若返るのです。しっかりかめているかなどを相談できる、かかりつけ歯科医院があることが大切です。
🦷 歯を失う原因は歯周病が最多
歯を失う原因は、歯周病が最多です。歯周病は生活習慣病の一つで、初期を含めると成人の80%以上がかかっています。暴飲暴食や不規則な生活など、日常の生活習慣の乱れが歯周病につながります。毎日の口の チェックが重要です。
予防は、やる気から始まります。歯磨きなど毎日の手入れと併せて、口の中の衛生指導などを行っている歯科医院に定期的に通う習慣をつけてみてはいかがでしょうか。
歯肉炎・歯周疾患の人(全国)
398万3000人
男性162万1000人
女性236万3000人
厚生労働省「患者調査(2017年)」
🦷 歯周病と全身疾患に関連性
歯周病と全身疾患との関係について、この数十年で多くの研究が進んでいます。現在、関連性が指摘されている疾患は、アルツハイマー型認知症、糖尿病、心血管疾患、
歯周病菌や歯周病で作られる炎症性物質が体内に侵入する経路についてもさまざまな研究が行われており、次の3つの仮説が議論されています。①歯周病菌が血液を介して全身に広がる ②炎症性物質が血液を介して全身に広がる③口から飲み込まれた歯周病菌が、腸内細菌環境に影響を及ぼす。
歯周病の予防や治療は、結果として全身の健康につながるといえます。