約半世紀に及んで子どもたちへの読み語りを続けてきた。その活動が評価され、2021年度の県教育賞を受賞した。「(受賞は)思ってもみなかったこと。驚いている」とはにかみながらも、「これからも、読み語りを通じて、情感豊かな子どもたちを育てていければ」と目を細めている。(日川)
読み語りを始めるきっかけになったのは、絵本の出版社に勤務していた1978年。25歳のときだった。ある保育園で子どもたちに絵本を読んだとき、自身の捉え方と子どもたちの感じ方に、違いがあることに気付いた。
「絵本なんて、ただ読めばいいと思っていた自分が恥ずかしかった。絵本の奥深さを知った」。それから、絵本営業の傍ら、絵本の読み語りをするようになった。読み語りをするから、子どもたちが絵本に興味を持ち、絵本が売れる、という好循環を生むようになった。
「読み語りをしてくれる朝川さん」の名前は、小中学校現場にも届くようになり、依頼があると気軽に読み語りの出前に行くようになった。「読み語りのためには、もっと絵本を読み込むための自分の時間が必要」と、34歳のとき自ら会社を立ち上げた。
最盛期には、年間で100回を超える読み語りを行った。東広島市や呉市を中心に、これまでの延べ回数は「正確な数字は分からないが、2000回を超えているでしょう」と振り返る。
心に留めてきたのは、「絵本には下限はあっても上限はないこと」。絵本を見た子どもたちの反応は、年齢に応じて違ってくると言い、「年齢に応じた経験をぶつけることができるのが絵本。極端な話をすれば、どの年代でも楽しめるのが絵本の魅力」と強調する。
読み語りは、「毎回、毎回が、子どもたちとの真剣勝負」と言い切る。自分本位で読んでいたら、子どもたちはそっぽを向くことを、読み語りを始めた当初に、保育園の子どもたちに教わったからだ。
「一人一人の表情を見ながら、読むように心掛けている。子どもたちのまなざしから、読み方を教わることも多い。いまだに、読み語りの極意に到達できないのが本音。だから、読み語りは面白いし、やめられないんでしょうね(笑)」。
1953年生まれ。㈱ほるぷ勤務を経て、1987年、アスクライブラリーを立ち上げる。「この本だいすきの会」東広島支部顧問も務める。絵本作家としても知られ、「ゆうくんだいすき」など5冊を出版している。現住所は八本松飯田。
朝川照雄さんのメッセージ
人が生きていくためには必要不可欠な言葉。その言葉を育むために一番大切なのは、家庭での親子の会話です。ただ、子どもたちが言葉を獲得してうまく使うようになるためには、本を読むこと(読んであげること)が、とても重要になります。
子どもたちは、いろいろな言葉に接することで想像し疑似体験をします。疑似体験は、子どもたちが将来、いろいろな場面で言葉を使い成長していくエネルギーになります。
朝川照雄さんが薦める絵本
まねしんぼう
岩崎書店
1100円
2歳~
妹は、お兄ちゃんを見ていて真似をする。
でも、どこか間が抜けているすがたに子どもたちは共感する絵本。
つきよ
教育画劇
1430円
3歳~
夜たぬきが月を見ていると山を滑って降りてきて
池の中で月が遊び始める。子どもたちはびっくりして
どんどん言葉を発します。どんな秘密が……。
もっちゃう もっちゃう もうもっちゃう
徳間書店
1540円
5歳~
おしっこを我慢したことのある子はみんな共感します。
おしっこがしたいとトイレに行くと工事中、次のトイレを
探して行ったトイレは……。もっちゃうもっちゃうもっちゃう
もっちゃう もっちゃう もうもっちゃう
ええところ
学研
1430円
5歳~
わたし、ええところひとつもないなあ背は低いし走るのも遅いって
友達のともちゃんに言ったらそんなことないよ
あいちゃんのええところは……。思いやりと自己肯定感を育てる絵本
ぼくだけのこと
偕成社
1540円
6歳~
世の中にはたくさんの人がいるのにぼくだけのことは何なんだろう
いろいろ考えていくと……。
たったひとりのともだち
金の星社
1540円
5歳~
カラスにとって初めてできた友だち毎日友だちに会いに行きます。
目も見えず病気の重い友だちがある日天使の羽を持って
旅立ちます。カラスは泣きながら叫びます……。
大どろぼうくまさん
教育画劇
1320円
6歳~
森をひとりの大男が歩いていました。小さな家を見つけたのです
やいうごくな さっとドアを開けてさけびました。
そこには年を取ったおじいさんと傷ついた動物たちがいました。
一緒に暮らしているうちに大どろぼうの大男は……。
ひび割れ壺と少年
アートデイズ
1430円
7歳~
あなたはあるがままでいい……。
イギリスやアメリカに伝わってきたお話です。
少年が天秤棒に壺を吊って川へ水を汲み お屋敷に運びます。
右側の壺はひびがあり水が漏れて屋敷についたときは半分に……。
すみれ島
偕成社
1540円
10歳~
南の海にすみれの咲いた小さな島がありました。
それは太平洋戦争末期に特攻隊の若者と小学生との
交流の中で子どもたちが贈ったすみれの花束 それを持って
若者たちは南の海に散っていったのです。
てん
あすなろ書房
1430円
お父さんお母さん先生
お絵描きの時間何も描いていない画用紙に向かって先生は言った
吹雪の中のホッキョクグマね 絵が描けないだけよとワシテ
じゃあ何か印をつけて……。ワシテは思い切り画用紙にてんをつけた。
そのてんがワシテの生き方まで変えてしまう。
これは本当にあったお話。親や先生大人の一言で子どもは変わります。
せかいで いちばん つよい国
光村教育図書
1650円
8歳~
大きな国の大統領は世界中へ戦争をしにいきます。
「せかいじゅうの 人びとを しあわせにするため」次々に征服をしていったのです。
たった一つ最後に小さな国が残りその国も征服しようと、ところがおかしなことが起こります……。
大統領は満足した表情で言います。「せかいをすくう せいぎのみかた! 大きな国は つよい国!」
「どこかおかしい。何かがちがう」
戦争について、大人も子供も考えるきっかけになる1冊