参院選は6月22日公示された。7月10日の投開票に向け、各党、候補者とも臨戦態勢で臨んでいる。今回の参院選について、時事通信社・松山隆政治部長と同社広島支社・中村卓朗編集部長、プレスネット編集委員の吉田実篤が議論を交わした。進行はプレスネット編集委員の日川剛伸が務めた。
目次
関心度は今一つ 注目は防衛費論争
日川 参院選も中盤戦。有権者の関心度は。
松山 全国的にみても今一つ盛り上がっていない。一つは、岸田文雄政権に大きな失策がなく、無党派層が「けしからん」と投票を起こす動きになっていないからだ。もう一つは、参院選は、政権交代に直結する衆院選と違って、時の政権への中間評価のような位置付けだからだ。
吉田 過去の参院選を振り返ると、広島選挙区では、自民党公認候補が2人出馬し、大規模買収事件への引き金になった2019年の参院選を除いて、風が吹かない選挙ばかり。改選2議席を与野党が分け合う構図が続いている。ほぼ体制は決まっており、当然、有権者の関心も低くなる。
中村 今回も、自民党候補と野党3党が推薦する無所属候補を軸とした選挙戦が展開されそうだ。
吉田 広島は、みんな仲が良いというか、候補者をみても与党か、野党か分かりにくい。
中村 広島は保守層の強い地盤。野党が地元の声を国政に届けようと思うと、地域振興といった争わない政策は与党と協力することもあり得る。そのことが、分かりにくさにつながっているのかもしれない。
日川 こうした中、今回の参院選の争点は。
松山 国民目線から見ると消費税を巡る議論が分かりやすい。野党は消費税減税や廃止を訴えているが、自民党は消費税の問題に触れていない。社会保障の財源となる消費税を引き下げると政権運営は成り立たないことを分かっているからだ。
日川 国民目線では、物価高対策も争点になりそうだが。
松山 物価が高騰し、国民の生活をじわじわと圧迫しているのは確かだが、各党とも有効な処方箋を示しているわけではない。
吉田 インフレの要因の6割は石油や天然ガス。原油価格が2~3倍に跳ね上がっている諸外国に比べると、物価は抑制できている。ただ、食料品を中心にじわじわと上がってきており、物価が本格的に高騰する秋口までに、何らかの対策が必要だろう。
松山 注目したいのは、与党も、野党も安全保障に絡む防衛力の充実を公約に掲げていること、これまでの国政選挙には見られなかったことで、時代の転換点だといえる。
吉田 広島は平和都市。外交努力だけの平和を望む声は、戦後の精神論から構築されたもので、現実的ではなかった。こうした中、広島の人たちは、防衛費の増額議論を受け入れようとしている。理想と現実は違うことを、分かっている証左だと思う。
中村 国民は、ロシアのウクライナ侵攻のニュースを見て、防衛費を増やすことへの抵抗感が小さくなってきているように見える。
松山 一見ハト派(穏健派)の岸田首相が、防衛費の増額を訴えるのは不気味ではある。もしタカ派(強硬派)の安倍元首相の政権下だったら、野党は防衛費の増額にこぞって反対しただろう。国民には、防衛力強化を訴えても、岸田さんだったら間違ったことはしないだろう、という根拠のない安心感があるのだろう。
吉田 ある県議の話では、岸田首相は、「何をやらなければならないのか」を覚悟している人だと。安倍さんができなかったことを岸田さんができるのか。広島県人としては、岸田さんを温かく見守るしかない。
「政治とカネ」は区切り 期待はG7サミット
日川 広島選挙区での大規模買収事件の影響は。
松山 21年4月の参院再選挙では、野党候補が自民新人に3万票以上の差を付けて当選、自民党に逆風だったが、昨年秋の岸田首相の誕生で状況は一変した。直後の衆院選では、6区以外は与党候補が制した。選挙結果から、区切りが付いた形になっている。東京から見ていても、「政治とカネ」の関心度は低い。
吉田 広島では、参院選や政治とカネの問題を通り越して、来年5月に広島で開催されることが決まった、先進7か国首脳会議(G7サミット)への関心が高まっている。G7サミットを岸田首相のもとでできるのは、象徴的な出来事だ。
松山 核保有国が参加してのG7サミットの広島開催は、ロシアの核兵器使用が現実味を帯びる中、広島でしか構築できない世界の平和維持を発信する好機になる。やっと岸田さんらしさが出たかな、と感じている。
中村 各国の首脳だけではなく、関係者やメディアなど、多くの人たちが広島を訪れる。地元広島の経済界の期待は大きい。コロナ禍で落ち込んでいたインバウンド、つまり外国人が広島を旅行で訪れる契機にもなり、観光面からも期待が膨らんでいる。
日川 今回の参院選を一言で締めくくると。
松山 関心は低いが、歴史の転換点と成りうる選挙。ぜひとも投票所に足を運んでもらって、それぞれの意思を示してほしい。
吉田 大阪では、維新の会の人気が高い。週に2日、大阪に通って感じていることだが、維新には理屈抜きの情熱があり、そこに大阪の人は惹かれている。だから、参院選では、有権者から「もっと頑張れ」と言わせるような、リアリスト(現実派)であっても情熱的な岸田さんを見てみたい。それが無関心層を動かす原動力になる。
中村 広島の自民党関係者は、首相の地元でぶっちぎりで勝つことが大事だと語気を強める。結果は岸田首相の今後の政権基盤や来年の統一地方選挙を占う試金石になる。
FM東広島で「記者座談会」を放送
6月30日19時~
7月4日14時~(再)
掲載の「2022参院選座談会」は、上記の日程でFM東広島(89.7MHz)で放送されます。
FM東広島はパソコン、スマホでも聞くことができます
松山隆政治部長が占う参院選後の政局は
与党過半数岸田長期政権の条件
直面する課題は安全保障
参院選後の政局はどうなるのか。まず、言えるのは、参院選で与党が過半数を維持することができれば、岸田さんは長期政権の足場を築くことになるだろう。
では、岸田政権が何をするのかとなると、残念ながら、現時点では何も見えてこない。岸田さんは本当に口が堅い人で、オンレコでもオフレコでも、言うことは変わらない。口が堅くて本音を言わないのか、本音がなくて言えないのかは分からないが、そのことが岸田カラーを出せない原因かもしれない。
岸田さんは、昨年秋の自民党総裁選で、新しい資本主義の実現を掲げて、総裁選を勝ち抜いた。新しい資本主義の中身は「成長と分配の好循環」。成長の果実を分配することで、次の成長が実現するという意味合いだ。
その重要政策の柱が、金融所得課税の強化。富裕層の課税を強化し中間層に分配するということを掲げたが、施策を打ち出した途端、投資家の意欲を損なうとして金融市場から警戒されるようになり、株価が下がった。「岸田ショック」と呼ばれており、それ以来、岸田さんは、金融市場を刺激することを言わなくなった。先だって、新しい資本主義の実行計画が示されたが、何一つ新しいことは出てこなかった。中間層の底上げが、いかに難しいかを印象付けた格好だ。
今後、岸田さんが直面する課題は、簡単ではない。一つは防衛力の問題。ある国からの弾道ミサイルに対処するため、未然に相手国のミサイルの発射拠点をたたくことができるという「敵基地攻撃能力」保有の是非が焦点となる国家安全保障戦略の改定に向け、参院選後には一定の結論を出さなければならない。
この攻撃能力の保有は、攻撃を受けたときに防衛力を行使できるという、日本が基本にしてきた専守防衛に抵触しかねない難しい問題で、岸田さんが好むと好まないとにかかわらず、どう決断を下すか注目される。
もう一つは憲法の改正だ。自民、公明、日本維新の会に加えて国民民主も改憲論議に前向きで、憲法改正の環境は整いつつある。岸田さんは「憲法の改正は自分で道筋を付ける」と語っており、一見ハト派の岸田さんのもとで、タカ派の安倍政権下ではできなかった憲法9条に自衛隊を明記する道筋がつく可能性がある。
参院選後の政局は、これらの問題を軸に動いていくことになるだろう。
今回はあくまでも数字で東広島市議のあらましを紹介したデータです。議員をきちんと理解するためには、一般質問では、質問の中身が問われること、議員報酬では報酬に見合う議員の質が問われること、議員の実労働日数は、議員間で大きな差があること―なども考慮されなければなりません。こうしたことを踏まえ、プレスネットでは、近く「議員の通信簿」特集を掲載します。