どんな演奏でも、満面の笑みで「楽しむ」ことを心掛ける。「自分が乗っていけるし、客席のお客さんにも音楽の楽しさを伝えることができるから」。プロのドラマーとして活動を始めて21年目。山口流のスタイルを駆使しながら精力的に演奏活動を展開する。(日川)
「音楽にビビッときた」のは中1のとき、という。ロックバンド「X JAPAN」のYOSHIKIのカッコ良さにあこがれた。賀茂高に進むと、知人からドラムを譲り受けたのを機に、独学でドラムの習得に励んだ。水泳部に所属する傍ら、軽音楽部の仲間とバンドを組み、夢中でスティックを握った。
「音楽系サークルが充実している」理由で進学した広島修道大では、さらに音楽活動に拍車がかかった。バンドを掛け持ちしながらライブに明け暮れた。「就職」を理由にバンド仲間が音楽から離れても、「僕にはドラムしかない」と卒業後もソロのドラマーとして活動することを決意。音楽教室の講師で生計を立てながら、自転車にドラムセットを積んで会場を回り、演奏活動を続けた。
転機が訪れたのは30歳のとき。先輩音楽家から声がかかり、NHKのど自慢のバックバンドの一員として、中国地区が会場のとき、演奏することになった。「認められたと思うと、自信が持てるようになった」。どんな曲でも、ニコニコした表情で、歌を口ずさむようにドラムをたたく姿が、SNSでもバズり、注目を集めるようになった。
演奏するジャンルはロックから歌謡曲、ジャズまで幅広い。特にジャズは「日常的に演奏の機会が多い」と大学時代から勉強を重ねてきた。そのキャリアを生かし、2014年には、河村貴之“Carp”Quartetに参加。広島東洋カープのさまざまな応援歌をジャズアレンジしたCDをリリースした。
ドラムの魅力を尋ねると「2枚目にも3枚目にもなれることかな」と即答する。かつて昭和のコミックバンドとして人気を博したクレイジーキャッツのハナ肇さん(故人・ドラム担当)を例に挙げ、「演奏の仕方一つで、ライブに笑いを盛り込み、ショーアップできる。ドラムという楽器が持つ特徴」と目を細める。
44歳。「好きなことを仕事にできることに感謝して、これからもずっとスティックを握っていたい。夢を語るというほどではないけどね(笑)」
山口さんインタビュー
■NHKのど自慢のこと
中国地方が会場時に限り、1年に4~5回出演しています。土曜日の予選から演奏しますから、1回で250曲前後をこなしますね。本番1週間前に、電話帳の厚さほどある楽譜がドサッと届けられ、初見の曲はきちんと下調べをして、本番に臨むようにしています。
演奏中は、歌う人が楽しく気持ちよく歌えるよう、自分自身の「乗り」にもこだわっています。奏者の気持ちが音に伝わるのが音楽ですから。ただ、あんまり乗り過ぎると、「ボーカルの人よりも目立っている」とSNSでツイートされることもあります(笑)。
■俳優にも挑戦!?
2021年にテレビ朝日系列の木曜ミステリー「遺留捜査」に、ドラマー役として出演しました。ドラムの所作は、素人だと素人感が出過ぎてよくないという理由で、僕に白羽の矢が立ったようです。あるバンドのサック奏者が亡くなり、そのときのバンドメンバーの一人が僕だった、という設定でしたが、ちゃんとセリフもありました(笑)。字幕にも僕の名前が出て、ちょっぴり俳優気分に浸ることもできました。
■ドラムとは
単純に誰が叩いても音が出る楽器ですが、四肢を総動員し、手足をばらばらに動かさなければならない難しさもあります。ある程度、運動神経の良さも求められる楽器ですね。もう一つ、ドラムの特徴は、ドラマーの性格が出やすい楽器かなと。ざっくりいったら、危ない橋を渡る人か否か。2~3回叩いたら、その人の性格が分かりますね。
一方で、バンドの善し悪しは、ドラム次第だといわれますが、僕の場合は、技術以上にハートのところを重視して演奏するようにしています。ハートが仲間に伝われば、結果としてバンドの演奏も良くなる―。そう信じてライブに臨んでいます。
■ジャズの魅力
何といっても即興でできること。自分を表現しやすいので、バンドを組むと、自分のパフォーマンスが他のメンバーに伝わり、どんどん音楽が前に進みます。フォーマットが決まっているロックや、自分を出せない演歌と違うところですね。
■故郷に帰郷
大学卒業後は、仕事も生活も広島市を根拠にしていましたが、2018年、生まれ育った黒瀬町に帰郷しました。自宅にスタジオを作りたかったのと、親が病気になったことで、黒瀬町に拠点を移すことを決めました。
ライブは、まだまだ広島市が中心ですが、東広島市でもカフェやお寺などを借り、演奏する機会も増えてきました。もっと東広島でライブができる場を開拓していきながら、古里に音楽の輪を広げていきたい、と思っています。