日本においては、少子化問題はまったなしの課題だ。政府は、今年6月、少子化政策を体系的にまとめた「こども未来戦略方針」を提示した。東広島市も今年度当初予算に、過去最大となる子育て・教育予算を計上した。こうしたことを踏まえ、東広島市選出の新谷正義衆院議員と、高垣広徳市長が「子育て」をテーマに語り合った。(聞き手・プレスネット編集委員 日川剛伸)
ライフステージに応じ切れ目なく支援
―「こども未来戦略方針」の柱は。
新谷 2022年に生まれた子どもの数は約77万人で、第二次ベビーブーム(1971~74年)の頃と比べると、4割以下にまで減っている。また、一人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率も22年は1・26と過去最低になっている。こうした現状を踏まえ、今後、3年間に集中して取り組まなければならない少子化対策として、こども未来戦略方針が示された。今年4月に発足したこども家庭庁を中心に、政策に取り組んでいくことになる。
▽若い世代の所得を増やす▽社会全体の構造・意識を変える▽全てのこども・子育て世帯を切れ目なく支援する―の三つの基本理念に沿って、施策を展開していく。
―東広島市では、子育て・教育支援策として19億7601万円を、今年度一般会計当初予算に計上されました。
高垣 東広島市の2022年出生数は1400人余りで、コロナ前の19年と比べ1割程度、約150人減少した。今年度の予算は、さまざまな状況を踏まえ、本市として取り組むべき子育て支援施策を包括的に推進する必要性を強く意識し編成したもの。
主な内容としては、妊娠期から学齢期までのライフステージに応じた切れ目のない支援策をパッケージ化したほか、質の高い保育と教育の推進、働く女性を応援する・共働き家庭を支えるための仕事と子育てを両立できる環境づくり、子育て世帯を地域で支える環境づくりなどである。
医療費助成 自治体間格差の是正を
―自治体として、子育て・教育施策に取り組んでいく上で、課題は。
高垣 一つは、各市町で子どもの医療費助成の制度が異なっていること。子どもの健やかな成長の土台として、本来住んでいる市町に関係なく次代を担う子どものための施策と考えているが、差異があることによって、人口流出などを伴う自治体間の競争を加速させているとの指摘もある。地域間の格差が生じることのないよう、全ての子育て家庭が安心できる全国一律の制度を構築してもらいたい。
もう一つは、保育士の確保。保育の質を高め、充実させるためには、大変に大きな課題である。給料など保育士の処遇や保育士の配置基準の改善を国においてしっかりと行ってほしい。
新谷 医療費助成などの自治体間格差や、保育士確保などを含めて、少子化対策には、どこの町でも子どもを産み育てたいという安心感があることが大切。東広島市は全国の地方都市でも、若い世代が多く元気のある都市。東広島をモデルケースにできることから取り組んでいく。
少子化対策を考える上で、忘れてはならないのは、結婚した夫婦が産む子どもの数は、昔も今もそんなに変わっていないこと。違っているのは生涯未婚率。結婚する人たちが減っていることを考慮しなければならない。若い世代が、しっかりとした将来展望を描ける社会をつくることは重要なポイントだ。
高垣 東広島市で少子化が進んできた要因の一つとして、若い女性が都市圏など仕事の選択肢の多い地域へ移っているということがある。こうした流出に歯止めをかけるには、例えば女性の起業・活躍の支援や、東広島市に住んでいても仕事ができ子育てもできる環境を整えることが重要と考えている。
また、女性が希望するさまざまな分野で活躍し、キャリアを形成していく中で大切になるのが、それらを支える社会制度の整備、機運の醸成をいかに進めていくのかということ。
昨秋、私は“職員のワークライフバランスを考え、組織の業績も結果を出しつつ、自らも仕事と私生活を楽しむことのできるイクボスを宣言し、今年6月には市内約30事業所の参加をいただき「イクボス共同宣言」を行った。こうした取組みをさらに広めて、男性も共に子育てする意識を高めていかなければならないと思っている。
新谷 高垣市長の指摘は、まさに、こども未来戦略方針にある「社会全体の意識・構造の変革」を意味する。男性は働き、女性は家事や育児を担うのが当たり前のようにいわれていた時代とは違う。夫婦が協力しながら子育てし、職場が応援し、地域社会全体で支援する社会をつくらなければならない。
―さまざまな子育て支援が奏功したとして、10年後、あるいはもっと先の東広島の姿をどう描かれますか。
高垣 多様な考え方や価値観が尊重される中で、希望する誰もが安心して子どもを産み育てられる環境が整い、本市の質の高い教育・保育を通じて、夢をもって成長した子どもたちの笑顔があふれている姿をイメージしている。
新谷 私も東広島市民。しっかりと高垣市長を支えたい。10年後の東広島の姿を見つめ、国としてできる制度作りには最大限取り組んでいきたい。子育てに明るい将来像を描くには、若い人たちが起業できるような社会をつくっていくことが重要だと思っている。
Profile
新谷正義(しんたに・まさよし)
地元・東広島選出の衆議院議員で、医師。2012年に初当選し、厚生労働大臣政務官、総務副大臣などを歴任。現在4期目で、自民党副幹事長
高垣広徳(たかがき・ひろのり)
尾道市出身。1976年に広島県庁入庁。東広島地域事務所建設局次長、土木局長などを歴任し2013年に退職。サタケに入社した後、14年から広島県副知事。18年、東広島市長選で初当選。現在2期目