FM東広島・毎週火曜日午後6時台に放送している『DOGENSURU NIGHT』内のコーナー『喫茶897』では、東広島の企業・団体の方にお越しいただき、色々なお話を伺っていきます。
第2回のお客様は、賀茂鶴酒造株式会社の営業部広報課・課長、太田裕人(おおた ひろと)さん。東広島の日本酒メーカーで誰もが知る賀茂鶴酒造は創業150年を迎える。その中で変わるもの・変わらないもの、また、太田さんの思い出とこれからの思いを聞かせていただきました。
賀茂鶴の150年。変わる時代と変わらない思い
―太田さんは普段どんなお仕事をされていますか?
広報と直接販売するところやイベントの企画が主な仕事です。気が付いたらいつもお祭りの準備しています(笑い)
賀茂鶴はメーカーなので、今までお客様と直接接するイベントって酒まつりくらいしかなかったんです。けれど、オンラインストアや直売所等を担当しているうちに、年から年中、イベント等の企画を考えるようになってしまいました。
―今年、賀茂鶴が創業150年とお聞きしました。東広島市が来年50周年を迎えるってことですから、その3倍ですね。創業150年という大きな数字に歴史の重さを感じます。
2023年9月9日で賀茂鶴は創業150周年を迎えました。
お客様、地域の皆様のおかげであり、賀茂鶴はお客様に育てられました。歴史を積み重ねてこられたのも、多くの方に支えられていただいたからです。ご年配はもちろん、若い人にも愛される酒蔵として、これからもあり続けたいです。
―賀茂鶴のヴィジョンに『千年企業』、『変化に順応した企業こそが生き残る』とありました。変化・順応しながら千年企業を目指し、酒を造り続ける賀茂鶴の根底には何があるのでしょうか。
そもそも、お酒は農家の方にお米を作って頂くところから始まります。なので、すぐに変化に順応するには時間のかかる業種です。蛇口をひねったらお酒が出るんじゃないかみたいなことを言われたりしますが……こういうお酒を造ろうと決めて、お米を作っていただき、米を磨いて、お酒を造って、貯蔵して、瓶に詰めてという工程までで言えば、実は3年くらいかかります。
―(想像以上に)凄く時間がかかるし、変化すること自体が大変そうですね。
3年というと、コロナ禍の3年間。この3年の間で皆さんの生活様式が大きく変わったんじゃないでしょうか。「なかなかお酒を飲みに出なくなりました」みたいな話も聞きます。
このコロナ禍で(飲み会や誰かと一緒に食事をするということも減り)、コミュニケーションの形がすごく変わったと思うんです。
私達が売っているお酒って、実はコミュニケーションツールなんです。
だから、コロナ禍を経て大きく変わる時代の中、賀茂鶴は、時代に応じてその在り方を変えながら、会話や料理を彩るコミュニケーションツールとして、生活に潤いをもたらす名脇役のような存在でありたいなと思っています。
そして、私は日本酒を「日本文化」と考えています。その日本酒という日本文化を支え続けていきたいです。
歴史を変える挑戦。それを積み重ねて見えた景色
―この3年間でどんな変化があり、どんなことをされてきたんですか?
お酒自体にも変化が生まれました。
人と会って飲むということが少なくなったので、色々な方に向けたお酒を造るようになりました。
お酒の苦手な方向けの新しいタイプのお酒を造ったり、お酒がお好きな方向けにはこれまで着手していなかった伝統的な製法「生酛づくり」の日本酒を造ったりしてきました。
また、私たち営業や広報はどうやってお客様と繋がっていくか、本当に模索し、会議を重ねました。その会議で使うZoomがあるのならとオンラインで酒蔵を案内したり、これからは映像だねと映像制作などが自社で出来るようになったりしました。
―新しいタイプのお酒というのはどういったものでしょうか?
例えば……今年は売っていないんですがリンゴ酸を多く含む、リンゴのような風味の吟醸酒。また、今売っているものであればワインの酵母で醸した純米酒ですね。どちらも若い方・お酒の苦手な方向けに企画した商品です。
日本酒らしさがない分、賛否両論ありましたが、甘酸っぱい味わいは若者に限らず普段お酒を飲まない方に好評で、先日も「この前飲んでおいしかったからまた来たんじゃ」という方もいるくらいリピートされる方も多いお酒です。
―今、おすすめのお酒は何がありますか?
肌寒い季節になってきましたよね。僕がおすすめするのは特等酒というお酒と上等酒、いわゆるレギュラーの昔からあるお酒です。個人的に燗酒が好きです。
特に特等酒。これが美味しかったことが、私の西条に帰るきっかけになったくらいです。
―太田さんが賀茂鶴で働く中で達成感のあったことや嬉しかった思い出はどんなものがありますか?
色々ありますね。その中のひとつですが、以前は「蔵開き」を賀茂鶴はしていなくて、3月に「醸華町まつり」という祭りがあったんです。
その醸華町まつりで、当時、お客さんの集まりがそこまでよくなく一時撤退しようと思っていたんですよね。それで、今の会長(当時社長)に相談したところ「何でもいいからお前の好きにやってみろ」と言っていただき、企画したのが「酒蔵マルシェ&ライブ」でした。
―酒蔵マルシェ&ライブはどういったイベントなんでしょうか。
ライブということなんで、ステージを組んで、「いいな」「好きだな」という音楽やってらっしゃる方をお呼びしました。また、マルシェでは地元のお店で、「こういうものがテーブルにあったらいいな」というもの、例えば、キャンドルやお花、そして、音楽。
1年目はボチボチという感じの来客数だったんですがお客さんの満足度が高く、2年3年と続ける間にお客様も出店者さんもたくさんの方に楽しんでいただけるになってきました。
その中で「よかったね」「よかったよ」そんな声を掛けて頂いて「やってよかったな」と。沢山の人に楽しんでいただいている顔を見るだけで本当に涙が出てきたんです。
ここ数年は蔵開きをしていますので、マルシェはしなくなったのですが来年の4月の蔵開きは「酒蔵マルシェ」を復活させますのでご期待ください。
郷土愛が生み出す日本酒の価値と未来
―酒まつりが近づいてきています。今年は賀茂鶴でどんなことが行われるんでしょうか?
今年は創業150周年ということで様々な催しを行います。
まず、有料試飲では1,000円でゴールド賀茂鶴ほか3銘柄(大吟醸・純米大吟醸)をご試飲いただきます。ゴールドには桜の花びらの金箔が入っているのですが、その桜型の金箔が入ったお客様にゴールド180mlを1本プレゼントいたします。
商品販売コーナーでは5,000円以上お買い上げのお客様にこちらも両日先着150名様に創業150周年記念平盃をプレゼントいたします。
また8号蔵では令和3年酒造年度に全国新酒鑑評会で受賞した金賞受賞酒を1,000円でご試飲いただけます。
他にも杜氏による酒トークや酒造り唄・オリジナルの枡が作れるワークショップ・チャリティーコンサートなど趣向を凝らしたイベント盛りだくさんです。
ぜひお越しください。
―太田さんにとって、賀茂鶴という会社を一言で表すならどうでしょうか?
私にとっては…「郷土愛」ですかね。
小さい頃、西条は小さい街でどこにでもある街だと思っていました。大学で西条を離れ、京都に行きました。その後も京都で就職したんですが、帰省した時に思ったんです。こんな町はほかにはない、と。
ある時たまたま、仕事で来た親父と飲もうってことになって、飲んだ日本酒が賀茂鶴でした。
その燗酒が旨すぎて、帰るなら酒蔵で働きたいと考えるようになりました。それまで、上手に思いを伝えられなかった親父と語る機会ができたのもお酒のおかげだと思ったんです。賀茂鶴で大切にしている言葉の中に「酒の中に心あり(酒中在心)」という言葉があります。
私は親父と賀茂鶴の酒を酌み交わした時に、まさに「酒の中に心あり」だと実感したんです。注いだ方の心、造る人の心、飲む人の心すべてが酒の中にあるんです。
―最後に、メッセージをお願いします。
今、日本人の生活様式は大きく変わり、そして、また元に戻りつつあると思います。その中で賀茂鶴は、時代に応じて「今」の在り方を変えながら、会話や料理を彩るコミュニケーションツールとして、生活に潤いをもたらす存在でありたいなと思います。また、おいしいお酒をお届けして1人でも多くのお客様にファンになっていただけるように地域のイベントも私も頑張りますし、地域貢献も含めて価値の創造に努めてまいります。
これからも引き続き、賀茂鶴酒造をご愛顧いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。
前回のお客様はこちら!