FM東広島・毎週火曜日午後6時台に放送している『DOGENSURU NIGHT』内のコーナー『喫茶897』では、東広島の企業・団体の方にお越しいただき、いろいろなお話を伺っています。
第28回のお客様は、安芸津町木谷にある甲斐農園の代表である甲斐直樹(かい なおき)さん。千葉から東広島に移住し農業に従事しているという甲斐さんに、移住や農業のことなどいろいろとお話うかがいました。
千葉から東広島に。心動かす魅力。
— 甲斐農園はどういったところか教えて頂けますか。
安芸津町でみかんやレモンなどの柑橘類、そしてジャガイモ、青ネギを生産、栽培をしております。
海沿いに面した畑で育てた作物をそのまま卸すだけでなく加工品なども取り扱っています。例えば、みかんをまる絞りしたストレート100%ジュース。また、黒瀬町の香木堂にお願いをし、レモンとジャガイモをかりんとうに使ってもらったじゃがいもレモンかりんとうというオリジナルの商品もあります。レモンチョコレートというのもありますね。
― 甲斐さんは家が元々東広島で農家をされていたんでしょうか。
父はサラリーマンで農家ではないですし、出身は千葉県です。
元々はロボットや機械を設計したり整備する、そういうものづくりの仕事をしたいと思っていたんですが、千葉に居る時に農場でアルバイトしたんですね。そこで経験した農業体験がものすごく楽しくて、これもものづくりなんじゃないか、と。
食べる作物、野菜を育て作ることも面白いんじゃないかと考え、どこか農業を学べるところはないかということでインターネットや本で探しました。そこで、東広島市安芸津町で住み込みアルバイトの募集を見つけまして、着の身着のまま千葉から飛んできました。
元々はしっかり学んだら千葉に戻り、教えて頂いた農業の知識を活かしていこうと考えていました。
ですが、瀬戸内海の綺麗な眺め、温暖で穏やかな気候風土、心地よい潮風や海の幸・山の幸が豊かな食文化、そこに住む人たちにどんどんどんどん私が魅了されていって、最終的にこっちで頑張ろうと考え、移住を決めました。
― 移住してきて農業を始めた頃の周りの様子はどうでしたか。
今だから聞くこと、今だから気付くことがいっぱいあるんですが、やはり最初は地域の皆さんにとっては「あの子どこの子?」と(笑い)。「安芸津に甲斐なんて子はいないぞ」「どこから一体来たんだ」なんて風に思われていたらしく、物珍しさや興味もありつつも、当然なんですがちょっと警戒心もあり少し距離をとって見られていたのかなと思います。
ただ、見られていたのは見守られていたということでもあったのかなとも思っています。すぐにいろいろと気にかけていただいて……安芸津の人達のやさしさを感じましたね。
また、当時、地元の先輩農家の方々がやられている生産者の組合だったりグループだったりいろいろ教えて頂くために入ったんですがやはり大先輩が多くて、世代的には私が孫世代になるくらい年齢が離れていましたね。その分、孫かわいがりされていたのかもしれません。
緑から蜜柑色に。色づく感動。
― お仕事で何か印象に残っている出来事や嬉しかった思い出はありますか。
農業の勉強、そして、研修を終えてから、一番初めに貸していただいた畑がみかん畑だったんですけど、春から管理を始めて5月のゴールデンウィークには花が綺麗に咲きました。
ただ、みかんの収穫は11月、12月といった冬なので、花が咲いてからかなり時間がかかるんです。その間も一生懸命草刈りなどいろいろ管理をしていくんですが、ふと「本当にみかんが、ちゃんとなってくれるんだろうか」「収穫できるんだろうか」と不安になることもあったんですね。
冬には実がなり色づいて熟しておいしくなって、それをハサミでパチパチと切り取って収穫と知ってはいましたが、その日がやってこなかったらどうしよう、と物凄く心配で心配でしょうがなかったんです。
でも、今でも覚えています。11月10日頃、畑に行ったら、今まで緑色だったみかんの実がじわっと蜜柑色に変わり始めていたんですね。
そこから日を重ねるごとに色が変わっていって、11月の終わり頃にはもう綺麗な蜜柑色一色で……それを見た時には何とも言えない嬉しい気持ちがこみあげて来ました。収穫した時も感無量でした。
それから1年1年経験も積み重ねていろんな先輩農家の皆さんからも教えて頂きながら、技術を身につけていくうちに、試行錯誤すること自体がすごい楽しくなってきたんですね。
— 甲斐さんの考える農業の魅力とはなんでしょうか。
農業をしていて常々感じているんですが、やはり手をかければかけた分だけ作物が正直に応えてくれることですね。
だから逆に、慣れてきた頃に「これをこうやったら出来るんだ」「ポイントを抑えた」「もう大丈夫だ」と油断したり横着したりして、畑に行ってみるとうまく育っていないなんてこともあります。作物はしっかり私を見てるんだなと。
その分、しっかり実って収穫できた時は「とったぞー!」と魂の叫びが(笑い)。
できあがって収穫した農作物を食べて下さる方や使って下さる方に「おいしかったよ」「よかったよ」と言っていっただけると嬉しさ倍増ですね。
— 甲斐さんは農業そのものを盛り上げる活動もおこなっているでしょうか。
農業の魅力を知ってもらいたい、身近に感じてもらいたいという思いもあり、農業体験を季節ごとに開催しています。
3月上旬には週末にジャガイモ体験を開催して、東広島の方や広島市、廿日市の方、お子様連れのご家族の方、大学生など本当にいろんな人が来てくれて一緒にジャガイモを植えました。6月には収穫体験をすることになっています。
先人から子どもたちに。伝えていく農業。
— 甲斐さんの趣味や好きなものを教えてください。
やはり農業につきますね(笑い)。多分このままずっと畑に通い続けるんだと思います。
それだけ好きになれたのも、先人達、先輩が作って来てくださった農業の土台、技術もそうですし大事に守ってきた畑もそう、地域やいろいろなノウハウ、それらがあったからこそだと考えています。
― 甲斐農園の将来の目標やビジョンはありますか。
今の世の中は気候にしても社会的な問題にしても変化が激しいと感じています。
私は農業を始めて今年で10年になるんですが続けることの難しさを身をもって感じています。農業はすごく大事で、私自身もすごくやりがいと責任を感じながらやっています。
20年後30年後、また次世代へバトンタッチしていけるように今の世の中に臨機応変に対応しながら農業をしっかりと続けていくというのが私のビジョンですね。
― 甲斐農園を一言で表すならばどういうところでしょうか。
木、ですね。
甲斐農園はまだ小さい木だと思います。まだフラフラしていて細くて皆さんからの支えがないとまだまだ立っていられない小さな木です。ですが、私を含め妻や社員、スタッフのみんなと一緒になって、地域の先輩から農業を勉強させてもらいながら1年1年積み重ねてそれを糧にしっかり育てた作物を皆さんにお届けする。それを積み重ねて、木が年輪を増すごとに太くなっていくように私達甲斐農園も木のように大きく育っていきたいです。
そして、作物と共に地域にしっかりと根差して、周りの仲間、地域の方々とも助け合い、手を取り合いながら、しっかり根を張り、大きな木になりたい。
そういう意味で木だと思いました。
― 最後にメッセージをお願いします。
甲斐農園は安芸津町にあります。私達の農園では2023年から季節ごとに野菜の作付けや収穫、また果樹の採集など、そういった農業体験をおこなっております。2024年も継続して開催していきたいと思っていますし、もし興味を持って参加されたいと思っている方はEcalo広島という申し込みができるアプリがありますので、そちらをチェックしてください。
私達も作物のおいしさ、農業の魅力や東広島、安芸津町の魅力を発信していきたいです。
また、私は千葉出身で元々他県から来た人間ですがこちらに来て周りの方に支えながらやらせてもらっています。この場を借りて御礼申し上げます。今後も豊かな気候風土をしっかりと活かして、東広島の元気で生き生きとした農業をみんなでやっていきたいと思っておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。
アツい。まず、甲斐さんを表すならばその一言が思い浮かびます。農業を愛し農業に愛された正にサンシャインな男! と言うとふざけているように聞こえるかもしれませんが本当に太陽のようにニコニコ笑顔の絶えない方で、この笑顔に照らされ続けているレモンやみかんは元気に育つだろうなと思いました。移住や農業は、これからの東広島にとってより重要なキーワードになってくるでしょう。その「先人」である甲斐さんに期待してしまうのは私だけではないはずです。甲斐さんを含めた農家の皆さんに応援や感謝の気持ちを込めて地元の作物を頂いていきたいですね。