中小企業にとっては、人口減少に伴う国内市場の縮小で、海外展開や新事業による新たな需要の獲得は喫緊の課題だ。こうした中、JICA(ジャイカ)(独立行政法人国際協力機構)では、中小企業の海外展開を支援する事業に力を入れる。JICA中国(東広島市鏡山)の東太郎次長兼総務課長に話を聞いた。(田坂英雄)
― 事業の概略についてお話ししてください。
「中小企業・SDGsビジネス支援事業」で、通称、 JICA Biz(ジャイカ ビズ)といっています。現在、開発途上国への資金流入は、民間資金が公的資金であるODA(政府開発援助)を大幅に上回っており、ODAとビジネスの連携の重要性が高まっています。また、新興国や開発途上国は、市場の拡大に加え、イノベーション(技術革新)拠点としての価値も高まっています。さらに、企業のSDGsに対する認識が高まり、SDGsを経営に取り込む企業や、環境や社会に配慮して事業を行っている会社に投資するESG投資などを重視する金融機関が増加しています。このような背景から、開発途上国の課題解決と日本企業のビジネスづくりの両立を支援する事業となっています。公募型の事業で、2024年度はニーズ確認調査とビジネス化実証事業を募集し、既に応募を締め切りましたが、来年度に向けての相談は受け付けています。
― 支援メニューについて説明してください。
メニューは二つあります。一つは、進出する海外の国のニーズ確認調査です。
対象国の市場規模や顧客層、流通チャネルなどの情報を収集し、ビジネスモデルが事業として成り立つかどうかを検証します。調査経費の上限は1500万円です。
もう一つは、ビジネス化の実証です。製品やサービスが受け入れられるのかを確認し、現地パートナーを確保した上で、供給体制や収益性を検証し、ビジネスプランを策定します。調査経費の上限は、4000万円です。
どちらのメニューも、JICAコンサルタントによるコンサルティングサービスを受けることができます。
― 「ジャイカ ビズ」を活用するメリットは何ですか?
ジャイカが長年、開発途上国と築いてきた信頼とネットワークを活用できることです。途上国ビジネスに精通したコンサルタントから助言を得られることも大きなメリットです。またジャイカが成果を発信することで、国内外に向けた企業認知度の向上にもつながります。この事業には、豊富な採択実績があり、過去の採択企業の約7割がビジネスを継続中です。
― この事業を活用した実績を紹介してください。
株式会社呉ダイヤ(呉市)は、マレーシアで水面清掃船を活用し、海洋ごみの回収事業に係る調査を実施しました。同社は、国内での受注機会が少なかったものの、豊富な経験と技術を持っていました。そこで、日本ではなく海外に目を向けて、深刻な環境問題になっているプラスチックごみの海洋投棄について、海洋ごみの回収に自社の技術を生かそうとジャイカ事業に応募されました。
実際にマレーシアの海上で、効率よくごみ回収ができる水面清掃船を使い、海上ごみの種類や量などを調査しました。
― 開発途上国でのビジネス化に向け、押さえるべきポイントを教えてください。
開発途上国へのビジネス展開は、予期せぬ出来事や困難が伴うため、事前の準備と計画が重要となります。ジャイカ ビズのサイトには、これまでの経験を踏まえた「開発途上国でのビジネス化に向けた押さえるべき12のポイント」という資料を公表しています。組織体制や提案製品・技術について、Q&A方式でまとめています。海外ビジネス展開を成功へと導くための具体的なアクションプランの策定に生かしてください。
― 最後に、ジャイカのさまざまな事業について目指していることを、お話ししてください。
途上国支援と、我が国の地域社会への貢献の両立を目指して活動しています。海外からの研修員や留学生の受け入れ、開発途上国への海外協力隊の派遣など、さまざまな取り組みを実施しています。
ジャイカ中国は今後も、地方自治体、大学、NGO、民間企業、一般市民など多様なパートナーと一緒に中国地方を盛り上げていきたいと考えています。
「信頼で世界をつなぐ」というビジョンを実現するため、ジャイカ中国は地域社会と海外の結節点としての活動を続けていきます。
企業情報
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