黒田が引退した。老若男女、カープファンならず全国の野球ファンに感動を与えてくれた。「男気」とはよく言ったもので、まさに黒田の、地味でブレない性格は存在感の大きさを物語っていた。チーム内だけでなく、他球団の選手たちにも印象づけた。敵地の東 京 ドームや甲子園球場で黒田が試合前の練習を始めると、相手チームの選手たちが、こっそりと隠れるようにしてその姿を凝視していた。若いピッチャーにとっては〝羨望(せんぼう)の的〟であったに違いない。
周知の通り黒田は、2年前、メジャー(ロサンゼルス・ヤンキース)での20億円の破格の年棒を蹴って復帰した。広島へは「最後の恩返し」「最後の死に場所」の気持ちが強かった。「お金ではない…」。この世の中、マネーゲームが浸透する中で、こう語った黒田のカープ愛が、この2年間でチーム全体に浸透。25年ぶりのリーグ優勝に導いた。
各球団首脳の黒田に対する声を聞いてみた。辛口で有名な元広島のコーチで西武、ヤクルトで監督を務めた広岡達朗氏は「完投できなくなったから引き際だと いう黒田の精神は立派だ。彼は大きな功績を残してくれた」。楽天の星野仙一副会長は「広島といわずプロ野球全体の選手に多くの教訓を与えてくれた。心技両面にわたってたくさんの教材をばらまいてくれたよ」。元広島時代の同僚だった阪神の金本知憲監督は「ウチの選手には、真っ向から戦う精神と投球術をよく見てノートにでも書き留めておけと言ったんだよ!」。
もう一人、前巨人の原辰徳監督は「まさに武士道精神。侍だよ。去年日本に帰ってきたとき、敵ながらアッパレ!と拍手を 送った、とにかくこの2年間立派だったよ。確かに体はボロボロだったかもしれない。カープに全身全霊を尽くしたと思う」と各首脳は黒田を球界の宝のごとく称え、大賛辞を贈った。日本シリーズで対戦した日本ハムの大谷と中田は「一緒にプレーができてよかった。脳裏に焼き付けておきました」と偉大なる黒田に喜びさえ感じ取っていた。
最後に黒田個人の私生活について。元プロ野球選手だった父親(南海ホークス)と学校の教師だった母親。両親からは、好きな野球をする少年時代から、将来社会人として謙虚さと思 いやりを持って生きていくようにと教わってきた。一人息子だっただけにいまは亡き両親が眠る墓には、ことあるごとに感謝の気持ちを込めお参りを欠かさない。
全国のファンに感動、感激を与えた黒田は、万感の思いでアメリカ(ロサンゼルス)の家族の元へ旅立つ。
ゆっくりと体を休めたいつの日か、今度は指導者としてカープに戻ってきてくれることを切望する。
球団は黒田の背番号「15」を永久欠番にすると発表した。当然のことだろう。
プレスネット2016年11月5日号掲載