東広島を拠点に活動するスポーツ選手が今年も全国・世界で活躍。3人に、2023年の目標を聞いた。
ザ・ウイークリー・プレスネット2022年12月22日号掲載
23年は世界を見据えるシーズンに
ダイソー女子駅伝部の大黒柱だ。国内のトラックレースでは、実業団に所属している外国人選手を含めて無敵の強さを誇る。ケニアから日本にやってきて5年目。2023年シーズンは、テレシア・ムッソーニ選手(20)にとって、世界を見据えた1年になる。
ムッソーニ選手の名前を一躍、全国にとどろかせたのは2020年暮れに京都市で行われた全国高校駅伝だ。世羅高のアンカーとして、トップから42秒差の8位でタスキを受けたムッソーニ選手は、次々と前を走る選手を抜き去り、トップでフィニッシュ。7人を抜く区間最高の走りで、チームを2度目の優勝に導いた。
高校卒業後はダイソーに加入。高校時代のキャリアにおごり高ぶることなく練習に取り組み、社会人1年目の2021年は、U-20世界選手権の3000㍍で優勝。20歳以下で世界一の称号を手にした。22年は、トラックの3000㍍と5000㍍で日本記録を上回る自己ベストをマーク。全日本実業団女子駅伝(クイーンズ駅伝)・同予選会(プリンセス駅伝)でも、安定した走りでチームの順位を押し上げた。
順調に成長を続けるムッソーニ選手を指導するダイソーの岩本真弥監督の話によると、大会に向けコンディションを最高の状態に持っていくピーキング力と、ラストのスパート力が、ムッソーニ選手の最大の武器という。
岩本監督は「普通、競り合ったときのラストのキレは、日本人選手がケニア選手に勝ることが多いが、彼女の場合は、日本人選手以上のスパート力を見せる。どのような展開のレースでも、勝ち切れる走りをするのが彼女の最大の魅力」と目を細める。
陸上を始めたのは、10歳のとき。小学校の校内マラソン大会で優勝したのがきっかけだった。「陸上は楽しい。もっと速く走りたい」。その思いを持ち続けながら練習に取り組み、高校は駅伝の強豪で知られる世羅高に留学。練習と平行して日本語の習得にも励んだ。
世羅町で3年間を過ごし、ダイソー入りしてからは東広島で生活する。来日当初、かたことだった日本語は、日常生活で支障がないほどに上手くなった。ダイソーの仲間からは「テレちゃん」の愛称で親しまれる。
「食べ物では唐揚げとトンカツが大好き。分からない日本語が出てきたら、チームの仲間に聞くようにしているから大丈夫よ」。日本で一番苦手にしているのは、寒さだそうで、「世羅は寒かったんよ」と広島弁を交えて語った後、「でも、西条は大丈夫。世羅よりぬくいから」と白い歯をこぼす。
自己ベストは3000㍍が8分39秒。5000㍍が14分44秒。23年は3000㍍で8分30秒を切ること、5000㍍で14分40秒を切ることを目標に掲げる。その先に見据えるのは、8月にハンガリーのブタペストで開かれる世界陸上選手権。ケニア代表での出場を目指す。「23年は世界で戦っていく足掛かりにしたい。究極の夢は世界一になること」。世界選手権後のプランもしっかりと思い描いている。
プロフィール
ケニア出身。2018年、世羅高に留学生として来日。高校3年の20年は、全国高校駅伝でチームの2度目の優勝の立役者となった。21年春、実業団のダイソー入り。同年のU-20世界選手権3000㍍で金メダルを獲得した。趣味は音楽鑑賞とダンス。165㌢、54㌔。
写真・文 Takenobu Hikawa