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(SUN)

知っておきたい災害時の心理と行動 広島国際大心理学科 西村太志教授に聞く

  • 2024/09/18


 人は災害などの危険な状況が迫ったとき、ちょっとした変化なら「日常のこと」として処理してしまうことがある。建物の非常ベルが鳴っても「きっと訓練だから逃げなくて大丈夫」「前回は大丈夫だったから、今回も大事にはならないだろう」と考えがちだ。非常時に慌てず行動するためには、こうした心の働きがあることを知っておくことが必要になる。広島国際大学心理学科の西村太志教授に詳しく聞いた。(取材班)



広島国際大学心理学科 西村太志教授
広島国際大学心理学科 西村太志教授


日頃から選択肢を準備し、柔軟に行動
判断は普段の生活での情報や知識に偏りやすい

人は安定を求める

 人はあいまいなことや不確実なことを避けて、基本的に安定を求める。これまで得た知識や経験から、「前回は大丈夫だったから、今回も大丈夫」「これまでにそんなことは起こっていない」という物事のとらえ方考え方をしやすい。このように物事の判断時に普段の生活での情報や知識に偏ってしまうことを「日常性(正常性)バイアス」と呼ぶ。異常を正常の範囲内のことと捉えることで、心の安定を保とうとする働きだ。この日常性バイアスは人間が生きていくための安全装置のようなもので、実際に生じていることを「生じていない」とみなしたり、反対に生じていないことを「生じている」とみなしてしまい、結果、偏った判断となってしまいやすい。

 また、人は不確実なものに期待を持つ傾向もある。「1カ月勉強してきたからきっと合格するはずだ」と試験を受ける前に考えるなど、結果がでておらず誰にもその結果がわからないことを根拠なくよい方向に考えることがある。災害で危険な状況が迫っていても、「自分には降りかからないだろう」「この家は新築だから安全なはずだ」と考えてしまう。「今晩、地震がくるかもしれない」と考え続けながら生活することはできないからだ。



図1 非常時にかかりやすい日常性バイアス


バイアスがかかる

 心の安定を保つための「日常性バイアス」が、災害などの非常時に逃げ遅れてしまうなどマイナスに働くことがある。どう対処すればよいのか。
 「私たちは非常事態を楽観視してしまう可能性があることを認識し、状況を把握することが必要だ。普段からこういうときはこうしよう、こんなことも考えられるな、など、いろいろな方向からものごとをとらえたり考えたりしておくことが大事になる」。



行動の選択肢を

 先日関東で台風10号の影響で東海道新幹線が止まった際に、関西から関東への移動で、通常とは異なり北陸新幹線経由や高速バス、飛行機に変更したりして何とか目的地に移動する姿がみられた。一方で、駅から全く動かなかった人もいる。災害は予測できないだけに、もし何かあった時はどうするかを、普段の生活の中で考えておきたい
 例えば、家から会社までの移動手段が車だとする。車が使えないときはどうするかを考え、シミュレーションをしてみよう。タクシー、バス、電車ではどうか、歩いた場合はどのくらい時間がかかるのか。事前に選択肢を考えておくことで、いざという時にも浮かびやすくなる。

 一般的に加齢にともなって情報処理機能や判断能力は低下する。「若いころは10の選択肢を持っていても、加齢とともに5、3、1と減っていく。新しい情報や知識を受け入れにくく、これまで経験したことや簡単なことが残りやすい。選択肢が多すぎるとかえって混乱するので、二、三つは持っておきたい」とのこと。また、高齢者は、長い人生経験から「これまで大丈夫だった」という日常性バイアスを抱きやすくなり、結果選択肢が狭くなる可能性がある。「そのことを周りの人も認識し、高齢者の避難を完全に自己責任にするのではなく、近所で協力する体制を持っておくと心強い」。



図2 災害時に避難しなかった人に聞いた避難しなかった理由
参考/日本心理学会2018年度「大阪府北部地震・西日本豪雨災害からの復興のための実践活動及び研究」助成に基づき、西村太志が代表となり実施した研究「「他者の動き」に関する情報で避難は促されるか?~災害経験後の意思決定過程の検討~」で、東広島市、呉市、三原市、安芸郡に居住する18歳以上の一般市民313名が回答した調査結果による。
https://psych.or.jp/wp-content/uploads/2019/11/18103.pdf


知識をアップデート

 豪雨時の避難先として、最初の選択は避難場所だ。最近では、今いる場所の上へ逃げる垂直避難も浸透してきた。日本には四季があり「暑さ寒さも彼岸まで」と言われてきたが、最近の気温の高さをみるとそうとは言えない。常識だと思っていたことがそうではなくなってきている。だからといって、その人の物事の捉え方や考え方の基本は、変えようとしてもすぐには難しい
 「人は基本的にものごとを安定してとらえたいと思っている。だからこそ、知識や情報を意識してアップデートしていく必要がある。防災訓練でのシミュレーションや、数時間停電したときにはスマホのライトでしのげたといったちょっとした成功体験を積み重ねておくことも有効だ。防災訓練は機会があれば積極的に参加してほしい」と話す。



「下の情報を見たときに、焦りを感じると思いますか」
非常に感じると思う」を10点、「全く感じないと思う」を0点として回答
下線部分が記載されている場合:6.01点
下線部分が記載されていない場合:5.77点
他者の動きの情報があると、焦りを感じやすい

図3 スマホに掲示される緊急避難指示で、「他者の避難についての情報」があると焦りを感じやすい
呈示した画面例(避難準備・他者の情報あり)(なしの場合は下線部分のみ削除)

参考/西村太志・相馬敏彦・福光直美(2019)。「他者の動き」に関する情報を加えることは、災害発生時の避難意識を高めるか?~平成30年7月西日本豪雨被災地における調査検討~。日本心理学会第82回大会。



地域とかかわる

 住む場所や家族構成、病気のあるなしなど、人によっておかれている環境や状況は異なる。災害時の避難行動のベストな選択も人によって違う。豪雨災害か地震災害かによっても変わってくる。
 「公的な支援でなんとかなるはず」と思うのも認知バイアスの影響だ。公的支援はあくまでシステムで、全員にベストな選択になるとは限らない。公的な避難場所がパンクするかもしれない。そんなときは近くの広い寺院や神社、安全な場所に住まいがある知人の〇〇さんの家へ行かせてもらおうという発想があってもいい。避難行動の最善(ベスト)を考えるだけでなく、次善(セカンドベスト)も考えておくことがおすすめだ。これを実現するには、地域に何がありどんな人が住んでいるのかといった情報共有が欠かせない
 「人は日常性バイアスからは逃れられないことを認識し、日ごろから非常事態での行動の選択肢を複数考えておくことが重要。一人一人が問題を無視しない、あきらめない、他人事にしないという姿勢が必要だ」。

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プレスネット編集部

広島県東広島市に密着した情報を発信するフリーペーパー「ザ・ウィークリープレスネット」の編集部。

東広島の行事やイベント、グルメなどジャンルを問わず取材し、週刊で情報を届ける。

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