高垣広徳市長が就任してから7月で3年半になる。高垣市政のこれまでを、市民が関心のあるキーワードに分けて解説する。(日川剛伸)
西日本豪雨災害から復旧は
01
→◎
土木工学専門のキャリアは生かされたのか?
業者不足にどう対応したのか?
復旧状況は?
解説
被災現場で国関係者に状況を説明する高垣市長(右から3人目)
被災状況
就任して半年も経たない時期に発生した西日本豪雨災害。東広島市で被災したのは河川や道路、農地など、県内で最も多い1730カ所に及んだ。
復旧への対処
県庁時代に土木畑で培ったキャリアと人脈をフルに生かした。特に一自治体レベルでは対応できない被災箇所は、いち早く国直轄の事業となるよう道筋を付けた。
広範に及んだ工事を迅速に進めるため、管轄の問題からくる県市別々の工事を一括発注できるよう工夫。市内業者不足などで生じた入札不調への対処では、市外業者と随意契約ができるようにし、工期を業者が選択できる入札方法も導入した。
被災者が望むのは、管轄や業者の問題よりも早期の工事完了。まさに被災者の目線に沿った対処だったといえよう。
復旧状況と今後
今年5月末時点での復旧工事着手率(契約完了)は90.3%、工事の完了率は43.9%。契約は、今年9月末までに100%完了させる意向だ。目標としていた今年3月末での契約の100%完了には及ばなかったが、行政に詳しいプロたちは「あれだけの工事件数に対処できたのは、業者も舌を巻く専門知識を持っていたから」と評価する。これからは防災・減災対策が求められるのは言うまでもない。
西日本豪雨災害からの復旧状況一覧
施設別復旧工事対象着手率
施設別復旧工事対象完了率
前市長からの継続事業
02
→◎
項目別にみると…。
美術館整備、道の駅整備、主要道路整備、中央生涯学習センター跡地利用、ソフト事業etc…。
解説
昨年開館した市立美術館。前任者からの大半の事業を継続する
基本は継続
トップが交代すると、基本的には前任者の負の遺産を整理し、事業の見直しをしていくのが通例だ。東広島市の場合は、安定した市民税収入を背景に、市長交代の影響を受けることなく、前任者からの大半の事業を継続している。
ハード事業は
前市長のとき基本設計を終えていた新市立美術館は、現市長で建設工事に着手し、昨年開館。前市長で基本計画をまとめただけだった寺家地区の道の駅「西条 のん太の酒蔵」も、現市長で工事に着手、22年7月のオープンを目指す。この他、小学校の新設や、道路整備なども着々と進展している。一方、懸案だった中央生涯学習センター跡地(西条栄町)の活用は、前市長時代の箱物を整備する方向から一転、多用途に使えるオープンスペースとして活用する意向を固めた。
ソフト事業は
キャッチフレーズは「子育てするなら東広島」から「やさしい未来都市東広島」に変更になったが、基本的な路線は変えていない。特徴的なのは現市長になって事業を進化させていることだ。子育て支援では、1カ所だったサポートセンターを地域ごとに設けた。前市長の売りの一つだった住民自治協は、地域の課題解決に向けて市の組織(地域振興部)と連動するようにした。
前市長からの主な継続事業の進行状況一覧
前市長時代 | 現市長 | |
都市計画道路 西条中央巡回線 (寺家工区)黒瀬川橋梁部 ~パチンコビクトリー |
用地買収・工事着手 | 2022年度完了予定 |
都市計画道路寺家中央線(1工区) 藤井材木店~桜が丘認定こども園西側 |
事業計画 |
事業認可。用地買収中 2025年度の工事完了予定 |
都市計画道路 吉行泉線(2工区) 法務局前~福美人横 |
用地買収 | 工事着手。2022年度工事完了予定 |
都市計画道路 丸山楢原線 国道375号~市道市尻宮前線 |
工事着手 | 2022年度工事完了予定 |
西条本通線美装化工事 白牡丹酒造横~市道末広町1号線 |
事業計画 |
工事着手。 2022年度工事完了予定 |
八本松駅前土地区画整理事業 |
事業認可 |
工事着手。 2030年度工事完了予定 |
広島中央エコパーク |
用地買収 |
造成・建設工事着手。 2021年秋供用開始予定 |
東広島市立美術館 |
基本計画・基本設定 |
工事着手。 2020年開館 |
道の駅「西条 のん太の酒蔵」 |
基本計画策定 |
工事着手。 2022年度7月オープン予定 |
新型コロナ対策
03
→〇
独自の支援策は?
ワクチン接種への対応は?
総括すると。
解説
広島大で始まった職域接種。独自の対策で10月末までの接種完了を目指す
独自の支援策
昨年行った独自の支援策では、キャッシュレス決済の20%還元セールが市民と事業者にウインウインの関係を作った。還元セールの直接の経済効果は約6億5000万円に及んだ。
中小企業者が国に提出する雇用調整助成金の申請に際し、作成を社労士に依頼した場合の費用を支援するサポート補助金は、中小企業者の支持を得た。これら2つの施策は他の自治体に先駆けての取り組みだった。
ワクチン接種
今年5月から始まったワクチン接種は、中小企業の従業員などを対象にした職域接種が広島大東広島キャンパスで可能になったことで一気に加速。類似の自治体が「東広島がうらやましい」とねたむ独自の体制で10月末までの接種完了を目指す。取り組んできた産学官の連携が今回の職域接種につながった。
総括
先の見通せない未知の分野に粛々と迅速に対応した。事業者や市民団体からの寄付なども相次ぎ、市の取り組みを後押しした。一方、市民からは感染状況の正確な情報が伝わらない、との指摘も多かった。ただ、これは人口が20万人に満たない市は独自に保健所を持てない、という制度上から生じる問題であり、首長の力だけでは、如何ともしがたい。
これまでの主な新型コロナ対策一覧
これまでの主な新型コロナ対策の内容はこちら↓
東広島市 新型コロナ対策 201億円の補正予算
http://www.pressnet.co.jp/article/200514_02.php
新型コロナ対策 東広島市 5回目の補正予算編成
http://www.pressnet.co.jp/article/200806_01.php
【東広島市】コロナ対策に新たに1.67億円
【東広島】医療従事者対象のワクチン接種は2月下旬開始
記者の目
今回、どのテーマも高評価だったが、高垣市政に忖度したからではない。想定外の「有事」にしっかりと向き合いながら、市政運営を前に進めたことに、マイナスの要素がほとんどないからだ。
見事だったのは市民生活を左右する有事の際の決断力とスピード感。リーダーとしての器の片りんを垣間見た。特に商議所や広島大と連携したワクチンの職域接種は全国でも注目を集めた。継続事業も進化させた取り組みが目立った。
ただ、肝心の市民の評価があまり聞こえてこないのはなぜだろう。取り立てて称賛することではないのか、市政に興味がないのか、市民と市長との距離感が遠いのか。次回で各分野の評価と合わせ検証する。
文・日川剛伸
ザ・ウイークリー・プレスネット2021年7月1号掲載