東広島市の新年度当初予算案で一般会計は1071億円。過去最大となった。その予算がどう使われるか。市民目線で知りたい10の項目を、プレスネットが市に質問、市の回答を紹介。「解説ワイド」では、当初予算案について市の多賀弘行財務部長とザ・プレス編集長の日川剛伸が対談した。
通学路、危険箇所を改善 物価対策で応援補助金
1.小児科・産科はこれから増えるのでしょうか?新年度の予算に小児科・産科を増やしたり、支援したりする予算はありますか?
小児科医不足への対策として、新たに小児科医療施設を市内に開業する医療機関に対して助成する制度を設けます。市内へ小児科クリニックを誘致することにより、小児医療提供体制の充実・強化を図ります。
また、広島大学に寄附講座(小児科・産科・麻酔科)を継続して設置することにより、医師不足の解消に努め、東広島医療センターの診療体制の充実と人材育成の取り組みの強化を図ります。
2.ガードレールや歩道のない通学路が多く、子どもの通学で心配しています。新年度の予算で通学路は変わりますか?
子どもたちの安全確保を最優先に、警察、学校、地域と連携して、通学路の「歩道」や「グリーンベルト」の整備、「注意喚起標示」や「ガードレール」の設置など、危険箇所の改善を進めます。
また、児童・生徒の登下校時の安全・安心を確保するため、現地の状況や設置条件などの確認を行い、通学路に防犯灯を設置します。

3.ひとり親家庭への経済的支援は今回の予算でありますか?その際の条件や申請手続きなども教えてください。
ひとり親家庭への経済的支援としては、児童扶養手当の支給やひとり親家庭等医療費支給制度など、さまざまな支援があります。各制度によって条件や手続き方法が異なりますので、詳しくは、市ホームページをご覧ください。
4.高騰する物価。市の対策はありますか?
高騰する物価は全国的な課題であり、国においても各種燃料代補助の継続のほか、地方公共団体が地域の実情に合わせて必要な支援をきめ細かに実施できるよう対策されています。このような対策を受け、市としては、子育て世帯の支援として、学校や保育所の給食費保護者負担額が増加しないように支援を行います。
5.経済の好循環あっての市の予算です。物価高騰などで苦しむ地元中小企業の経済浮揚策はありますか?あれば手続きなどを教えてください。
中小企業対策については、国において価格転嫁の徹底や省力化投資などの生産性向上への支援など中小企業の稼ぐ力を高めていくような施策が展開されており、これらの施策が適切に活用されるよう、商工会議所、商工会などと連携し支援を強化してまいります。
市独自の施策としては、省エネ対策や効率化・高収益化、新商品・新サービス開発などの対応ができる、物価高騰対応チャレンジ応援補助金を実施する予定です。詳細は3月中旬に公表予定です。
6.西条町に住まない市民から、「西条ばかりが良くなる」という声を聞きます。西条町以外への目玉予算はありますか?
○八本松駅前土地区画整理事業(八本松)予算額/10億2087万円
○東志和地域センターの駐車場造成(志和)予算額/5390万円
○高屋西地域センター・高屋中央保育所の建て替え(高屋)予算額/10億8977万円
○黒瀬生涯学習センターの長寿命化改修(黒瀬)予算額/4億8632万円
○福富みらいベースの整備(福富)予算額/1億7067万円
○東広島こい地鶏支援・豊栄小中ラーニングルーム整備等(豊栄)予算額/計5273万円
○入野地域センター改修・県営産業団地関連市道設計(河内)予算額/計5927万円
○宮崎川流域治水対策・風早地区高潮対策(安芸津)予算額/1億7000万円
7.過去最大の税収を実感できない市民からの声です。飲食店・小売店の撤退や、設備・建設関連の中小企業の倒産が相次いでいます。10年先、20年先のまちや大学の展望は分かりますが、私たちの苦しい日常にはどんな対策を講じられますか?
生活に困窮されている方については、国が行う物価高対策臨時給付金などを着実に支給するほか、生活支援センターによる伴走支援を行っており、必要に応じて生活保護などの各種制度につないでいます。また、離職などにより住居を失う恐れのある方などについて、一定期間、家賃の一部を支給する支援等もありますので、お困りの際にはお気軽にご相談ください。
また、中小企業への支援として、物価高騰が続く中で適正な価格転嫁で安定した経営環境になるよう、国が実施しているパートナーシップ構築宣言への登録を、物価高騰対応チャレンジ応援補助金の申請要件にしています。
そのほか、引き続き人材育成等支援事業補助金により従業員のリスキリングやスキルアップを進める企業の取り組みを支援していきます。
いずれにしても、中長期的に本市が発展し、持続可能な施策が展開できるような財政基盤を確立しながら、足元の経済社会情勢をしっかりと見据え、市民の皆さんの切なる声をお聴きし、必要な対策を講じていきたいと考えています。
多賀弘行財務部長とザ・プレス編集長が対談 行政と民間の役割明確に

―市民は生活に関連する予算が一番の関心事です。
多賀 さまざまな市民に寄り添うことは柱の一つ。新しい取り組みでは、若者の自死を防ぐための24時間チャット相談や、発達障がいの初診待機時間短縮に向けた医療機関への支援、待機児童の解消を目指す保育補助員の配置などに予算を投じた。
日川 足りないところに予算を配分するのは当然だとしても、ひきこもりなど社会構造に起因する問題もある。例えば、復旧は行政が担うが、復興は民間が担うというように、行政と民間の仕事の境目がある。
―一方で、未来への投資は。
多賀 新しい時代をリードする、という思いのもと、「次世代学園都市」の骨格づくりに力を注いでいる。ただ、長いスパンで考える必要があり、市民がその未来をイメージしにくいのは事実。しかし、未来をつくっていくためには、安定的な財政も不可欠。安心できる生活環境の中で企業の立地も進み、人口が増え、経済が回って、税収につながる循環を作っていければと思っている。
日川 未来のための投資は必要で、国も推奨している。
―サイレントマジョリティー(発言をしない多数派)の要望は、予算に反映されていますか。
多賀 日々多くの相談を市民からいただき、また市民が直面している課題や思いを踏まえた市議会からの提言を念頭に予算を編成しており、幅広い市民の声に目配りし応えられるよう努力している。
日川 本質的には、議員はサイレントマジョリティーの声を吸い上げていないのでは。その声に応えるためには、確固たるマスタープランを描いていることが必要だ。
―西条町に予算が集中しています。
多賀 金額のみを捉えればそう感じる部分があるかもしれないが、全市的な視点から施策を展開していくとともに地域課題などを踏まえたバランスも常に考えている。
日川 周辺部には、投資をしても人口が増えない現実があることは確かだ。
―市民一人当たりの教育費は周辺市町ではトップです。
多賀 校内特別支援教室や心のサポーター配置などの充実に注力しつつ、ハード面の整備が集中したことも大きな要因となっている。
日川 行政は批判されていることに慣れているからか、良いことのPRが苦手。もっとPRすべきだと思う。
記者の目
予算の記事は、読者の生活に必要不可欠な情報なのに、なかなかうまく伝えられません。一つには行政用語が多く理解しにくいことや立場によって評価が分かれることが理由ですが、なんといっても担当官の皆さんが多くの要請に真摯(しんし)に対応されていますから、我々のような、いかに多くの人に伝えるか!をどのように説明しようか悩んでいらっしゃいました。
今回の予算に関わる記事に関しては本当にご協力をいただきましたが、本質が伝わっていないと思います。だからこそ賢明なる読者の方には過去最大の予算の使われ方をご検証いただきたい。未来を創造しているか?生活困窮に対応しているか?そして、より多くの方にWell―beingな予算配分になっているのか。1年後にその結果を検証してみたいと思います。
(吉田実篤)
ぶれない―高垣広徳市長 まちづくりの思いは?

Q.市の提唱するWell―beingはどのようにして実現させようとしていますか?
市総合計画の後期計画ではWell-beingの実現を大きな目標としていますが、この考え方は所得の豊かさの指標となるGDPに代わるものだと考えており、現在世界中で注目されつつある考えです。
この実現には「誰ひとり取り残さない社会」を市民の皆様と築いていくことが必要で、支え、支え合う社会である地域共生社会の実現を目指しながら、行政として総合計画に掲げた施策を着実に実行していくことだと考えています。
「ありがとう」という言葉で感謝が連鎖し、住み、学び、働いてよかったと思っていただける、そのような東広島市を創っていきたいと考えています。
※Well―being
身体的・精神的・社会的に良好な状態にあること
Q.1000億円を超える過去最大の予算規模。増えた税金は主に何に使われますか?
これまでの産業施策や地域活性化施策により、市税収入は私の就任当初と比べて約100億円増え、また、有利な国や県の交付金や起債などを活用することで、中期の財政運営を見通しながら、過去最大規模の予算を組むことができました。この予算で、学校や保育所などの改築をはじめとする建設事業や、医療介護、福祉、教育などの施策を充実させることができました。
今後とも、地域経済の活性化のための投資を計画的に進めながら、市税収入のさらなる増加となるような好循環を構築し、市内全ての地域において、市民生活の様々な課題解決に努めてまいります。
Q.Town&Gown構想。これまでの成果は具体的に何でしょうか?
この構想を機に、多くの民間企業の本市への投資意欲が高まったこと、政府においても地方創生のモデルとしての評価を頂き、脱炭素社会に向けた取組が進むとともに、SDGsの先進都市として全国で27位と評価されるなど、着実に市としての評価が上がってきています。
また、具体的成果としては、東広島医療センターの医師派遣による地域医療の充実や新型コロナワクチンの「職域接種」を全国で最初に実施したこと。大学研究と民間知見が結びつき、スマートシティ共創コンソーシアムが設立され、民間投資の可能性が高まったことや学園都市としてかねてからの課題であった新しい交通システムにあたるBRTの社会実験も始まりました。
街づくりにおいても、西高屋駅前での市民が中心となった合同会社の設立のきっかけとなったことや、地域と一体となった医療福祉のプロジェクトが進展しています。